この物語はフィクションです
何者かが、扉を叩いた
ここには自分一人だけ
見知らぬ者との対峙は
過去の記憶を蘇らせた
子供の頃
家に鳴り響くインターホン
扉の向こうが恐ろしかった
小さな身体と脳では
居留守をする他に手はない
扉を開ければ殺されるかもしれない
心を閉ざして身を守るしかなかったのだ
そんな事を考えているうちに
もう一度
扉は叩かれた
今度は強く
そして速く
まるで何かを急いているようだ
更に恐怖は加速する
大人になった今でも
時が過ぎ去るのを待つしかないのか
自分が情けなくなりながらも
扉の前でジッと耐えしのいだ
どのくらい経ったのだろう
遠のく足音が聞こえた
よかった
まだ死ななくていい
安堵し
扉を開けた
公衆トイレはもう使わないと心に誓った